AbemaTVヨコノリch JPSA放送の進化(後編)

ライター: Rockwave

Facebook

Add this entry to Hatena Bookmark

AbemaTVヨコノリch JPSA放送の進化(前編)の続き…

【岩波】
僕は広く自由で作り込みにくい海という会場で行われるサーフィン競技で効率良く作り込めるのが「放送」だと思っています。実際に現場で競技を見る人数の数百倍の方が観ますので、AbemaTVのサーフィン放送を分かりやすくカッコよく作り込み、プロサーファーの「人となり」や本気で挑戦している姿をしっかりと視聴者に伝え感動を与えられれば、僕らの放送を通じてプロサーファーの存在価値を上げていける。その結果サーフィン業界底上げの役割を果たせるって思っているんです。

【waval】
なるほど。そうした放送を届ける視聴者ターゲットについてはどう考えていますか?

【岩波】
かなり一般を意識して放送を作っていますね。というのは、現在まで行われてきたサーフィン競技の発信はライディングの映像と実況によるライブ放送が主流で「解説」が弱いんです。そもそも集客の仕組みが弱いYouTubeライブなどを使用している場合が多く、SNSでの拡散も既存の繋がりの中でしか行われていませんので、結果として視聴ターゲットは既存サーファーがメインということになりますよね。しかしAbemaTVのJPSA放送では、放送インフラであるAbemaTV自体が集客を行っているので、サーフィンを全く知らない視聴者も見てくれる可能性が高い。そのメリットを最大限に生かしていく必要があります。

今まで路地裏のお店だったサーフィン放送が、繁華街の大通りに路面店を出したという状況です。そうした放送を見てくれる新規の視聴者ターゲットに向けて、いかにサーフィンが伝わる画面情報と実況解説をするかが重要なんです。

【waval】
明らかにターゲットが違っているのですね。

【岩波】
既存サーファーはサーフィンや技のプロ選手の名前がある程度分かっているので、良い映像と勝ち負けの結果が伝われば一定の満足をしてくれます。でもそれも見ていられるのは自分のお気に入りのプロが出ている間。もちろん波が良ければずっと見ていられるのですが、日本国内の試合では小波の状況も多いです。だから波などの条件に左右されにくく、一般目線に沿った分かりやすい番組制作が必要になると思っています。

サーフィン界で世界最高峰の放送はCT(WSLが主催するChampion Tour)なんですが、CTの視聴ターゲットは世界中の既存サーファーなんですよ。同じ既存サーファーでも母数が多いわけです。でも僕ら国内の放送はそうじゃないですよね。

既存サーファーでも長く見てられない状況なのに、サーフィンを知らない視聴者には全く通用しません。サーフィンってどんな事なのか、サーフィン競技っていうのがありどんな技があるのか、どうやって勝敗が決まるのか、どんな選手がいてコンテストの魅力、ストーリーは何か。それらを分かる映像と言葉で伝えなくてはなりません。

そして私達のビジョンである「サーフ初のメガメディア」を現実にするには、サーフィンをやらないけど放送は楽しく見てくれるという「ファン」が必要になります。実際こうした一般目線の放送は一般視聴者のみならず既存のサーファーにも好評です。分かっているような言葉やストーリーも意外と伝わっていないことが多いのだと思います。

放送直前そうした状況をスタッフに分かりやすく伝えるのに「今日も渋谷のスクランブル交差点渡る若者のスマホにサーフィン届けますよ〜」なんて言ったります(笑)

【waval】
なるほど。かなりしっかりと明確にターゲットを意識されているのですね。
実際に岩波さんはどのような方法で分かりやすい放送を作っているのでしょうか?

【岩波】
チームでの意識の共有が一番重要なポイントです。何のための放送なのかを明確にしています。

カメラワーク一つでも印象は変わるし、プロフィールをどこで出すか。リプレイのどのセクションをどのくらいスローにするか。追求は尽きません。僕自身の役割で言えば、僕のデスクにはMC席に座る演者さんに語りかける唯一のマイクがあります。MCが話している内容、試合の進行、リプレイや映し出されている映像について矛盾があったり、伝えてほしいことがある場合は随時そのマイクから演者へ指示を出しています。


岩波氏デスク周りの写真(マイクで常にMCへの指示出しが行われている)

そして伝えるには番組全体の一体感が大切です。流れっていうほうが良いのかな。

「あ、この流れだとこのテロップ出すことになるな」とか、「この話題ならこの説明しないと成立しないでしょ」とか考えつつ各セクションへ指示出ししていきます。情報の整合性を大切にするというか。

僕ら放送チームは主に「映像」「音声」「CG」「解説」に分かれています。

【waval】
それぞれにどんな役割がありますか?

【岩波】
<映像>は地上とドローンのカメラとリプレイを切り替え土台となる画を作ります。<音声>はMC席以外にも歓声や波の音、ワイヤレスカメラの音(ビーチ際の応援や優勝時の歓声など)を盛り込みで臨場感を作ります。そこに<CG>によってスコア、プロフィール、大会結果などの視覚的な情報を載せて映像が完成します。完成した映像に<解説>が分かりやすい言葉を加えてサーフィンコンテストを伝えていきます。これらの関係は一方通行ではなくて、MCからの流れに映像や音声、CGが合わせる事もあるので臨機応変な対応力が大切です。

【waval】
生放送ですからスピーディーな対応が求められるのですね。

【岩波】
これもスタートの頃苦労した経験から学んできたことなんですよね。
このJPSA放送は最初、テレビのスポーツを放送されているチームで行われる予定だったんです。でも結果うまく行かず今の体制になりました。サーフィンの現場を知り即座に対応出来る今のチームは本当に最高です。

【waval】
当初は苦労もあったのですね?

【岩波】
案件立ち上げのミーティングでは双方の常識に大きなギャップがありました。僕らの放送は1日10時間以上放送するし、途中で急にウェイティングになるし、放送時間がスタートしてから場所の移動だってありえます。予め全てを決めてから放送するテレビ業界の皆さんからすると、そんな現場は流石に普通じゃなかったみたいです(苦笑)それにまして雨も風も潮も砂もありますしね。

一番最初のミーティングで僕が話した現場の状況に曇ってしまったテレビ関係者の顔は今でも忘れられないですよ。でも同時に僕にとってはサーフィン競技がテレビで扱われない理由がはっきりして、このJPSA放送を成功させることはヨコノリchにとってもサーフィン業界にとってものすごく重要なんだ!って気付くことができた日でした。ターニングポイントですね。

【waval】
今回の白浜も途中で急遽ウェイティングありましたよね(笑)

【岩波】
はい。「10分後から3時間ウェイティングになるからよろしく!」って(笑)

【waval】
そのような場合はどう対応していくのでしょうか。

【岩波】
事前にAbemaTVのプロデューサーとは「次回こんなことやりたいですね!」とか「こういうのどう思います?」なんて話を常にしているので、こういう時に「あれやりません?」みたいになることが多いです。今回はそれがロケによる会場案内と、新しいお絵かきシステムを使ったコーチングコーナーでした。

サーフィン テレビ
急遽ウェイティングが決まった際に行った会場を紹介するロケコーナー。技術チームの高い技術力と迅速な対応が良いコンテンツを生み出す

【waval】
突然Naminori Japanのウェイドコーチが登場してびっくりしましたよ。
でもあのお絵かきシステムは分かりやすくていいですね!

サーフィン テレビ今回から新登場したお絵かきシステム、画面にリアルタイムで線や文字を書くことができる。

【岩波】
あれは今後が楽しみなシステムですね。昨年9月の鴨川から参加していただいているCGチームとの出会いは本当に大きな変化に繋がっています。スコア表示から始まったCGテロップですが、今ではラウンド結果、プロフィール、ランキング、ヒートの順位グラフと充実して、今回も新しくお絵かきシステムに加え、デザインも大きく変更してあちこちにアベマ君を盛り込みました(笑)
画面情報って伝える効率がとても良いものなので僕はとても大切に考えています。

【waval】
テロップのアベマ君かわいいですよね(笑)

【岩波】
僕もかなり気に入っています(笑)

そしてCGチームだけじゃないんですよね。MCのnicoさん、神田愛子プロ、間屋口香さん達の意識も努力も本当にすごい。常日頃からいろいろなやり取りをしていますが、神田愛子プロはメモノートびっしり書いてくるし、間屋口さんも言い回しなどについて連絡してきたり、nicoさんなんかNSAのジャッジ資格まで取得していて本当にその熱意に感謝しています。

こうしたここまでの切磋琢磨の結果として、AbemaTVが一番重要と考えている番組の5分間視聴UUがこの伊豆下田の放送で過去最高を記録できたのだと思います。合計視聴数も634.000と昨年最終戦を超えることができて少しずつ結果にも現れて来て嬉しいです。

サーフィン テレビ昨年最終戦を終え全スタッフでドローンからの記念撮影

【waval】
そうしたスタッフ全員の積み重ねで放送が進化しているっていうことですね。

【岩波】
あ、あともう一つ大事なこと忘れていました。
放送中に流れているコメント!これがまた大事です。

【waval】
なるほど。コメントも確認しながら対応して行く訳ですね。

【岩波】
そうです。AbemaTVにはコメント機能があるので、自分たちの映像に対する感想は30秒後にコメントという形で返ってきます。コメントは1日1000~2500ほど届きますので、常に常に変化のヒントが飛び込んできますし、その時対応できなかったものは毎回宿題としても持ち帰ります。

本当に分かりやすいですよ。いい絵と良い解説が流れるように放送できるとコメントがドバっと届いて、チグハグは映像になってしまうとパタっとコメントが止まります(笑)

昨年の伊豆下田チャンピオンプロの放送はゼロからのスタートだったので、スコアをどの位置に表示したら見やすいか、MCブースのワイプ(小画面)をどこにどのサイズで表示したら良いかなど、スマホ視聴という環境に適合させる方法を悩みながら放送していましたが、コメントで「スコア小さくて見えない」とか「ワイプと並べた方が見やすい」とか意見がきて、随時それに合わせていきました。すると「見やすくなった!」「アベマの対応力ハンパない!」とコメントで返ってきました。

同じようにどのライディングのリプレイを出していくか、どのルールが分かりにくいと感じていて説明のテロップが必要かなどもコメントから学び対応しています。そうした視聴者とのコミュニケーションを放送している10時間のあいだ絶え間なく続けながら、AbemaTVでのサーフィン放送基準をより高く塗り替え続けています。

サーフィン テレビ
AbemaTVは本気です(笑)

【waval】
AbemaTVのJPSA放送は色々なシーンを映していて飽きないですよ。
個人的には表彰式の後に映っていた温泉に浸かる大野聖修プロと大澤伸幸プロの2ショットも面白かったです(笑)

【岩波】
あれもいいシーンでしたよね。ああした自由な表情をもっと取り込まなければなりませんね。そうすることで選手のONとOFFが見えてくるので個性がより強く発信できます。

サーフィン テレビ
大会後のリラックスした表情。大澤伸幸プロ(左)と大野聖修プロ(右)

【waval】
今までの放送ではなかなか見られなかったものですよね。
あのロケシーンで映っていたジャッジブースやプライオリティのマグネットは印象に残っています。

【岩波】
あのコーナーではJPSAコンテストディレクターのずっちょ先輩に無理をお願いしました(笑)

【waval】
岩波さんが考える最高のサーフィン放送とはどんなものでしょうか?

【岩波】
サーフィンを愛する皆さんはもちろん、サーフィン競技を初めてみた視聴者の皆様にもプロサーファーの「人となり」や、コンテストのストーリー、そしてサーフィン競技の感動が伝わる放送です。全ての進化はその感動を伝えるために行ってると思っています。

【waval】
大会はドラマありますものね。

【岩波】
サーフィンコンテストにはところどころでドラマやターニングポイントがあって、感動的なストーリーがあります。でもそのストーリーを分かりやすく伝えられなければ伝わるのは結果だけです。それでは頑張っている選手も浮かばれませんし、サーフィン放送を通じてサーフ業界が発展することは難しいと思います。
その日主役に輝く優勝選手がいて、その周りに名脇役もいて時には悪役もいる。サーフィン競技はそういう一大エンターテインメントだと思います。

【waval】
最近の放送で心に残っているシーンはどんなものがありますか?

【岩波】
そうですね。
例えば2017年初戦のバリ島のコンテストは生放送ができず収録ベースで制作させていただいたのですが、ファイナルの残り時間10秒という場面で、2位だった田中英義プロが、プライオリティを持っていないにも関わらず波に乗り、大澤伸幸プロへのインターフェアで4位になってしまうシーンがありました。

田中英義選手は最後の波に乗らなかったら2位だったけど、彼は自身のメインスポンサーが冠のこの試合でどうしても優勝が欲しかった。だから9.25ptという高得点が必要な場面で、仮に乗っても逆転出来るかわからないミドルサイズの波に乗らずにいられなかったのでしょう。一方で大澤伸幸プロも、その波の演技で順位をあげられることは無かったと思います。

僕は茅ヶ崎の後輩である佐藤魁プロに初優勝をプレゼントしたのかな?ってファイナル終了後に駆け寄りハグをしている佐藤魁くんと大澤くんを見て感じました。

本意はご本人に聞いてみないと分かりませんが、選手一つ一つの判断や挑戦には意味があって、その積み重ねが大きなストーリーを生んでいるのです。

サーフィン テレビ
田中英義プロ(黄)、優勝への執念から犯してしまったファイナル終了10秒前でのインターフェア

サーフィン テレビその10秒後に佐藤魁プロが初優勝を決める

サーフィン テレビ悔しさを隠さない田中英義プロ

サーフィン テレビ
地元茅ヶ崎の後輩の初優勝に駆け寄りハグをする大澤伸幸プロ(赤)こうしたストーリーを最適な映像と解説で伝えていく

【waval】
いや、熱いですね(笑)

【岩波】
プロサーファーってカッコいいですよ(笑)そしてサーフィンコンテストは本当に面白い。プロ選手の本気度から感じているそのかっこよさ、競技の奥深さをより多くの視聴者に感じてもらえるような放送をして行きたいです。

僕は現場で「面倒なことをやればやるほど放送が良くなる」と思っています。

それは誰よりも現場で放送を見て指示をくれるプロデューサーの萩原くん、現場を駆けずり回ってプロサーファーを連れてきてくれる佐藤くんなどをはじめ、チームの皆さんがそう思って動いています。

ですのでコメントやプロデューサーからのアドバイスを実現するのが難しかったとしても「あぁ、この難題をクリアしたらきっと視聴者は喜んでくれる」って思って精一杯取り組んでいます。

サーフィンコンテストというイベントは選手、運営、地域、メディア、そして視聴者の交差点です。コンテストを良い放送を拡大できればサーフィン全体の底上げに役に立つことが出来ます。

そしてこうした臨機応変なサーフィンコンテストの放送ができるのも柔軟性に優れたAbemaTVというメディアの素晴らしさですし、この変化に富んだ現場に対応できる素晴らしいヨコノリchチームでしか作れない放送で、AbemaTVという新しく楽しいサービスの一端を担っていきたいと思っているので、この戦いを続けています。

【waval】
戦いなわけですね!

【岩波】
Tokyo2020のサーフィン種目が正式決定し、今やサーフィンは業界内での戦いから他のスポーツとの戦いに移り変わっています。もちろん僕らJPSAの生放送も同じで、視聴率で他のメジャースポーツに負けないもの、他のメディアからは発信できない唯一無二を目指していかなければ未来はありません。業界に新しい戦いが起こっているように、僕らにもAbemaTV内での存続を懸けた戦いがあります。

【waval】
次は7月27日から、愛知県田原で開催される第3戦「夢屋サーフィンゲームス 田原オープン」になりますね。

【岩波】
はい。次回の田原も28-30日の3日間で放送を予定しています。

この大会では想定されている開催ポイントが3カ所。今回の第2戦に比べて気温も上がり機材の保全やスタッフの健康管理が難しくなってきます。いまからしっかり不安要素を潰していき、今回の挑戦で得られた新しいコンテンツを更に進化させて安全で高品質な放送をして行きたいと思います。

この1年でAbemaTVのJPSA放送が定着し、選手との距離も近くなり、個性的なコメントがたくさん聞けるようになってきましたので、今年は選手もと力を合わせて更に攻めた番組作りしていきます!

是非皆さんにもAbemaTVでのJPSA生放送を楽しんで頂ければ嬉しいです!

【waval】
楽しみにしています。
今日は熱いお話ありがとうございました。


AbemaTV_ヨコノリTV

"Catch The Funwave!" - WAVAL(ウェイバル)

「いいね!」してSNSでサーフィン情報をチェック >>

Facebook

Add this entry to Hatena Bookmark

この記事を書いたライター

Rockwave

岩波重之:サーファーの父のもとに生まれ、25歳で湘南へ移住、ボディボードシェイプを学びながら自らのブランド「ロックウェイブ」を設立。 以後JPBA理事長とし長年に渡り選手をプロモート。最近は映像ジャンルに力を入れNSA全日本選手権のライブ配信や、AbemaTVヨコノリchの番組制作なども精力的に行なっている。ボディボードの能力を活かした水中撮影にも定評がある。
・映像について:http://rockwave.tv
・ボディボードについて: http://www.rwbbj.com
・お問合せ:iwanami@rockwave.tv