歴史的クロスゲーム『タナー・ガダスカスvsガブリエル・メディーナ』を振り返る
ライター: Tsuyoshi Nakajima
・元CTエリート・サーファーの「タナ―・ガダスカス(
—–歴史的なクロス・ゲームを演じた「タナー・ガダスカス(アメリカ合衆国」と「ガブリエル・メディーナ(ブラジル」を振り返る。〜ジャッジ批判、賛否両論が飛び交ったジャッジについて〜 WSL CT『Hurley Pro Trestles』:
今シーズン第8戦となったSamsung Galaxy World Surf League(WSL) Men’s Championship Tour(CT)『Hurley Pro Trestles』。南アフリカのパワー・ハウス「ジョーディ・スミス(南アフリカ)」の勝利で幕を閉じた(詳しくは▶︎「ジョーディ・スミス」世界タイトルレースに加わる!WSL CT『Hurley Pro Trestles』)が、このスペシャルなイベントにおいて歴史に残るクロス・ゲームを魅せてくれたのは、Round 3での「タナ―・ガダスカス(アメリカ合衆国)」と「ガブリエル・メディーナ(ブラジル)」のマッチアップだった。
—–賛否両論が飛び交ったジャッジ。WSLジャッジクライテリア(ジャッジ基準)とは
このハイレベルの超クロス・ゲームには、ソーシャル・ネットワークなどで多くの波紋を呼ぶほどだった。国柄や好みなど、世界中で勝利者と敗者について賛否両論の意見が飛び交っているが、僕はWSLのジャッジは正当なスコアだったと思っている。
・SNS上でCTサーファーを含め、賛否両論が飛び交った問題のヒート
WSLの世界アスリート・サーフィンのコンテストは、1つのライディングに対して1~10満点のスケールで、1ゲーム(ヒート)30分~40分の中、ベスト2ウェーブ20満点の合計点で競う(BWTビッグ・ウェーブ・ツアーなどの一部ツアーは例外)。タナ―とガブリエルは、2本のエクセレントな8点台でバトルを繰り広げるハイレベルな素晴らしいゲームを演じた。
WSLのジャッジ・クライテリア(ジャッジ基準)は、大きく分けると5つのカテゴリに分類されて評価する。
1.Commitment and Degree of Difficulty(積極性(期待通りの公約)と難易度の高さ) 2.Innovation and Progression(革新的とその進歩)」
3.Combination of Major Maneuvers(メジャー・マニューバーのコンビネーション)
4.Variety of Maneuvers(種類の違いバラエティに富んだマニューバー)
5.Speed, Power and Flow(スピードがあり、パワーと流れの加わるライディング)
そして5つのWSLジャッジ・クライテリアの中には、さらに深いジャッジ・クライテリアが存在する。
例えば「Linking Maneuver(鎖のようにつながるマニューバー)」。このジャッジ・クライテリアは、日本では「ノートリム(マニューバーとマニューバーのボトムでのつなぎに小さなチェック・ターンを入れない)」などど呼ばれることの多い「ターンのつなぎに」当てはまるかと思う。
しかし、WSLのジャッジ・クライテリアには「ノートリム」などという言葉やターンは存在しない。ようは、2つのマニューバーのつなぎのボトムで小さなチェック・ターンがあったとしても、そのライディング事態の流れが止まっていなければ(鎖のようにつながっていれば)、減点対象にはならずにスコア・ポテンシャルにはまったく影響しないということだ。
—–昨シーズンと今シーズンのジャッジ・クライテリアでの変化とは
そして、昨シーズンと今シーズンのジャッジ・クライテリアでの変化のあったところは、ビーチ・ブレイクのような会場でのフェイス・マニューバーでは、「横に引きずるカーヴィング系のマニューバー」よりも、「縦にラジカルに攻め込むリップ・アクション系のメニューバー」の方が高いスコアが表れている。
見た目には扇状の大きなレール・トラック(レールが波のフェイスに残す残像)や、大量のスプレーが飛び散るカーヴィング・ターンの方が美しくよりダイナミックに見える方が多いとは思うが、今シーズンのビーチ・ブレイクでのイベントでは、「切り立つ波の一番パワフルでリスクの高い波のリップにおいて、どれだけパワフルで難易度の高い演技をコンプリート(成功)させるか。」というところにスコアの重点を置いている。
・フォアハンドでは、ストレート・アップの角度からのE難度の演技「ブローテール・グラブ・リバース・リエントリー」を完璧にメイクした タナ―・ガダスカス(アメリカ合衆国)
・誰よりも縦にアグレッシブに攻めていた「タナ―・ガダスカス(アメリカ合衆国)」。WSL/Kirstin Scholtz
—–タナー・ガダスカスの勝因
トレッソルズは、僕も実際に何度か渡米して素晴らしい波の恵みをいただいている場所で、玉石とサンド(砂)の混じるパーフェクト・ブレイクサイズがアップすればバレルも出現する。フェイスは硬質ではなく、カーヴィングもリップも本当に気持ち良くメイクできる世界屈指のサーフゲレンデだ。
今回のタナ―の勝因は、ガブリエルよりもより低い姿勢の深いボトム・ターンから、より縦にリスクの高いリップをめがけてボードをヒットさせていたところだと思う。もちろん、ガブリエルの演技も本当に素晴らしいものだった。ただ、ガブリエルのカーヴィング系のコンビネーション・マニューバーよりも、技数は少ないながらもタナ―の、より縦へのアプローチと常にブロー・テール(テールを思い切りボード蹴りだす)・サーフィンの方にスコア・ポテンシャルがあったと感じる。
扇状に飛ぶ大量のスプレーと長いレールトラックを刻んだガブリエル、ロケットのように真上に凄まじく鋭利に飛ぶタナ―のスプレーとトラック。簡潔に言うと、「10時~4時の方向に向く」ガブリエルのボトム・トゥ・トップのノーズに対して、タナ―のノーズは「12時~6時の方向に向く」バーティカルなアクションであり、ガブリエルよりもリスクの高いアグレッシブな攻め込み方をしていたということになる。
だが、勘違いしないでほしいのは、タナーもガブリエルも本当に紙一重の僅差のクロス・ゲームであり、どちらが勝利してもおかしくない歴史的なゲームだったということだ。
そしてもう一つ、タナーのラスト・ライド8.67ポイントと、その前に演技したガブリエルの8.30ポイント。この両方のライディングで大きな論議を呼んでいるが、タナ―が最後に魅せたヒート・ベストの8.67ポイント。タナ―はあのラスト・ライドをスコアしていなくても、その前の時点で勝利していたことは事実だ。
※Samsung Galaxy WSL Men’s CT 『Hurley Pro Trestles』Event site:
http://www.worldsurfleague.com/events/2016/mct
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この記事を書いたライター
Tsuyoshi Nakajima
「WSL(World Surf League) Japan Regional」ツアーにおいて、2015シーズンまでイベントの「アナウンサー/キャスター/インタビュアー/コメンテーター」などを担当。数々のワールド・アスリート・コンペティションを目の当たりにし、イベントサイトのインターネット・ライヴ中継を通してワールドツアー・アスリート・サーファーたちのヒート(試合)を解説。伊豆をホームに持つサーフィン歴は30年を超え、地元の海において「子どもたちのためのサーフィンレクリエーション」なども主催。
サーフィンのディープな本質や、ワールドツアー・イベントから国内のアマチュア・イベント、How Toなど、サーファーだけではなく、すべての方々にサーフィンを楽しんでいただけるようなニュースをお届けします。
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